サーキットデザイン教育センター(CDEC) 概要
1.CDEC設立の目的
有明高専は、これまで培ってきた半導体・集積回路設計教育の知見と実績を基盤として、2025年4月1日にサーキットデザイン教育センター(Circuit Design and Education Center,CDEC)を設置しました。
CDECは、全国の国立高専と連携し、日本の半導体産業を支える実践的な技術者を育成・輩出することを目的としています。その活動は、以下の二つの柱を軸としています。
サーキットデザイン(半導体回路設計)教育の推進
サーキットデザイン教育を応用したアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の支援
これらの活動を通じて、科学技術の急速な進歩や社会の変化に柔軟に対応できる、知識と創造性を兼ね備えた人材を育て、日本の半導体産業の発展に貢献します。
2.日本の半導体産業とCDECの役割
かつて世界の半導体市場をリードした日本ですが、設計と製造を分離する「水平分業」 という世界の潮流への対応が遅れ、市場シェアを大きく落としました。しかし現在でも、半導体製造装置や素材の分野では世界トップクラスのシェアを誇っています。
この日本の強みを活かし、国際競争力を取り戻す鍵となるのが、半導体の性能を決める「設計」分野の強化です。CDECは、特にこの半導体・集積回路の「設計」ができる技術者の育成に注力することで、日本の半導体産業の復権に貢献することを目指しています。
3.高専とCDECの取り組み
(1)高専機構全体の半導体人材育成
全国の国立高専では、深刻な半導体人材不足に対応するため、2022年度から次世代基盤技術教育のカリキュラム化事業(COMPASS5.0)の一環として、半導体教育プログラム(K-SEMICON)を推進しています。有明高専は、この中の「設計」分野を担う実践校として、全国の高専と連携した教育体制を構築しています。
(2)東京大学との連携による人材育成強化
CDECは、日本の半導体研究を牽引する東京大学システムデザイン研究センター(d.lab)と包括連携協定を締結しました。d.labの前身は、全国の大学・高専の集積回路設計教育を支援してきた東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VLSI Design and Education Center,VDEC)であり、有明高専の石川洋平教授(CDECセンター長)は、その設立当初から深い交流を続けてきました。この強固な連携がCDEC設立の礎となっています。
この連携により、有明高専はd.labが持つ最先端の知見や全国の大学とのネットワークを活用し、高専における半導体設計教育のハブ拠点としての役割を担います。高専生が最先端の研究に触れ、将来的に大学院進学などを通じてトップレベルの研究者・技術者へと成長する道筋を拓きます。
- 左から有明高専 八木校長、石川CDECセンター長、東京大学d.lab 池田センター長
(3)グローバル・アントレプレナーシップ教育との連携
有明高専は、国際的に活躍できる人材を育成する「グローバル・エデュケーション・センター(GEC)」や、学生のアイデアを形にする「起業家工房」を設置しています。CDECはこれらの組織と連携し、高度な専門技術だけでなく、グローバルな視野と新しい価値を創造する起業家マインドを兼ね備えた、次世代のイノベーターを育成します。
第1回高専起業家サミット本選(2024年3月)にて、有明高専の学生チームが「KOSENサーキットデザイン教育インストラクター養成ビジネス」を発表し、優秀賞を受賞しました。
4.サーキットデザイン教育の全国展開に向けて
CDECは、有明高専が株式会社ジーダットとの産学連携で培ったEDA(電子設計自動化)ソフトウェアの教育ノウハウを基盤としています。この実績を活かし、全国の希望する高専に対して、以下の支援を行います。
EDAソフトウェア利用環境の提供
指導者・サポートスタッフの育成支援
オンライン半導体教育プラットフォーム「COGAKUSEE」の提供
小中高生向けのメタバース教材などの開発・提供
これらの活動を通じて、サーキットデザイン教育を全国に普及させ、より多くの若者が半導体分野に興味を持ち、未来の担い手となることを目指します。
- 石川洋平教授は、高専初の「サーキットデザイン教育」を掲げ、半導体人材育成に貢献した功績が評価され、令和5年度国立高等専門学校教員顕彰において文部科学大臣賞を受賞しました。
5.サーキットデザイン教育センター(CDEC) 事業概要
有明工業高等専門学校サーキットデザイン教育センター(CDEC)は、産学官金の連携を強化し、次世代を担う技術者の育成と日本の技術革新を牽引するため、以下の9つの柱で事業を展開します。
(1)サーキットデザイン教育の普及
全国の学生や教職員を対象に、最新のEDAソフトウェアを用いたワークショップや質の高い教材を提供します。小中高生にも半導体の魅力を伝え、次世代の技術者の裾野を広げます。
(2)産学連携による教育コンテンツ開発
企業との共同研究やインターンシップを通じて、産業界のニーズを反映した実践的な教材を開発します。学生が社会で即戦力として活躍できるスキルを養います。
(3)EDAライセンスの管理・提供
高額で高度な半導体設計ソフトウェア(EDA)のライセンスをCDECが一括で管理し、希望する全国の高専が利用できる環境を整備します。これにより、学生は最先端の設計技術に触れることができます。
(4)インストラクター育成プログラムの実施
全国の高専で質の高いサーキットデザイン教育を展開するため、指導者(インストラクター)を育成するプログラムを実施します。CDEC認定プログラムとして展開し、教育の質の向上と標準化を目指します。
(5)アントレプレナーシップ教育の推進
学内の起業家工房と連携し、ビジネスプランコンテストへの挑戦や起業家による講演会などを通じて、技術力と起業家マインドを兼ね備えたイノベーション人材を育成します。
(6)サーキットデザイン教育基金の運営
技術革新に迅速に対応できる持続的な教育活動のため、企業や個人からの寄附による基金を設立・運営します。皆様からのご支援は、教材開発や設備投資などに活用さ せていただきます。
(7)産官学金との連携調整
産業界、国、自治体、大学、金融機関などとの連携を強化し、CDECの活動を効果的に推進します。特に、東京大学d.labや全国の大学・高専とのネットワークのハブとしての役割を果たします。
(8)COMPASS5.0(半導体分野)への支援
高専機構が推進する半導体教育プログラム(COMPASS5.0)において、有明高専が担う「設計人材育成拠点」としての役割を支援し、全国の半導体技術者育成に貢献します。
(9)センターの適正な運営
外部有識者を含む運営会議を設置し、透明性の高い運営体制を構築します。事業計画や報告書を公開し、社会への説明責任を果たしながら、センターの発展に努めます。