サーキットデザイン教育基金募金趣意書

1.はじめに

 有明工業高等専門学校(以下「有明高専」という。)は、令和7年4月1日にサーキットデザイン教育センター(Circuit Design and Education Center、以下「CDEC」という。)を設立いたしました。
 CDECは、サーキットデザイン教育の推進とその応用を通じたアントレプレナーシップ教育の支援を二つの柱とし、科学技術の急速な進歩や社会の変化に柔軟に対応できる、知識と創造性を兼ね備えた人材育成を目指します。また、有明高専が長年培ってきた半導体・集積回路設計教育の知見と実績を基盤とし、全国の国立高等専門学校と連携しながら、日本の半導体関連産業を支える人材の育成と輩出を力強く推進してまいります。

 

2.CDEC設置の背景と日本の半導体産業の現状

 我が国は、高度経済成長期に産業界の要請に応えるべく、早期専門教育と実践的な技術者教育を重視した高等教育機関として、高専制度を創設しました。高等専門学校(以下「高専」という。)は設立以来、優秀な技術者を社会に輩出し続け、産業界から高い評価を得ています。高専制度創設から62年を経た現在、KOSENとして国際的な認知度も高まり、その存在意義は一層増しています。
 近年、AI、IoT、自動運転といった次世代技術の進展に伴い、その基盤となる半導体・集積回路の重要性が増しています。しかし、国内では設計分野における高度専門人材が不足し、国際競争力の低下が懸念されています。この課題を解決し、持続的な発展を遂げるためには、世界をリードする高度技術者の育成が喫緊の課題です。
 このような背景のもと、有明高専は、長年にわたり実践的な技術教育に注力し、多くの優秀なエンジニアを輩出してまいりました。特に、石川洋平教授が提唱する「サーキットデザイン教育」は、半導体・集積回路の早期・多世代教育プログラムであり、学生の能動的な学習を促し、実践的な設計能力を養う上で高い評価を得ています。また、このサーキットデザイン教育は、半導体設計技術者の育成に貢献しており、多くの卒業生が関連企業で活躍する人材育成、小中学生から高専生まで幅広い層への早期・多世代教育の機会提供、設計のハードル低減を目指した分かりやすい教材開発、そして地域企業や自治体との連携による地域貢献など、多岐にわたる成果を上げています。
 さらに、有明高専は、令和2年11月、地域企業の研究課題解決と学生の研究力向上を目的とした新たな産学連携の仕組みとして「産学連携マッチングラボ」を創設し、地域企業との共同研究を推進しています。石川教授は、起業家精神を柱として、有明高専の教員と企業の技術者・研究者から構成される7つのラボ開設を牽引しました。また、後継者育成と若手指導に尽力し、高専発の「サーキットデザイン教育」を通じて日本の半導体人材育成と高専のプレゼンス向上に貢献した功績が認められ、令和5年度国立高等専門学校教員顕彰において文部科学大臣賞を受賞しました。
 有明高専は、これらの先進的な取組と実績を踏まえ、サーキットデザイン教育の全国展開を加速させることを目的としてCDECを設置しました。これにより、産業界のニーズに応える実践的な半導体・集積回路分野の人材育成を推進し、教育ノウハウや教材の共有による質の向上と普及、地域連携強化による半導体産業の活性化と地域経済への貢献、ひいては我が国の半導体産業の国際競争力強化を目指します。

 

3.CDECの目指すもの

(1)全国高専との連携と人材育成の二本柱
 CDECは、全国51の高専と連携し、「実践的半導体人材(ボリュームゾーン人材)」と「研究開発志向半導体人材(トップ人材)」の双方の育成に注力します。独立行政法人国立高等専門学校機構が推進する「次世代基盤技術教育のカリキュラム化(COMPASS5.0)」における半導体分野の教育(K-SEMICON)と連携し、有明高専が半導体設計教育の実践校としてその役割を担います。オンライン授業や企業連携による実習を通じて、全国の高専生が質の高い半導体教育を受けられる環境を構築します。

(2)東京大学大学院d.labとの連携による高度人材育成
 CDECは、日本の半導体・集積回路人材育成のパイオニアである東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター(以下「d.lab」という。)の前身である、東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(以下「VDEC」という。)の設立思想を継承し、d.labとの包括連携協定(令和7年1月締結)に基づき、研究開発志向の高度人材育成を強化します。
 CDECは、d.labと全国の高専とを繋ぐハブとなり、VDECを構成する地域拠点校(北海道大学、東北大学など9大学)に有明高専が10拠点目として加わる形で、高専における半導体・集積回路設計教育と研究活動の機能強化を目指します。

(3)有明高専における先進的な取組の展開
 有明高専では、石川洋平教授を中心に、低学年からICチップ試作まで体験できる体系的な「サーキットデザイン教育」を実践してきました。株式会社ジーダットとの「JEDATサーキットデザインラボ」運営をはじめ、小中高生向け「紙(塗り絵)・メタバース・EDA教材」開発(体験者4,000人以上)など、早期教育と産学連携にも積極的に取り組み、これらの実績とノウハウを全国展開します。
 また、希望する高専に対し、指導者・サポートスタッフ育成、EDAソフトウェア利用支援、および半導体教育プラットフォーム「COGAKUSEE」(木村情報技術株式会社と共同開発)を提供し、EDAソフトウェア習得と学習効果確認を容易にします。また、小中高生向けメタバース学習ソフト等も提供し、高専におけるサーキットデザイン教育の普及を目指します。さらに、教育ノウハウ伝承、地域小中高校への出張授業による啓発活動、教育ツール開発を継続し、既存コンテンツに加え、教育レベル向上や学習範囲拡張に合わせ、より高度で新たな分野を含むコンテンツ開発を進めます。

(4)グローバル人材育成とアントレプレナーシップ醸成
 急速に変化しグローバル化が進む現代社会では、高度な専門技術力に加え、国際的視野と新たな価値を創造する起業家精神を持つ人材が求められています。有明高専では、この要請に応えるべく、以下の取組を推進しています。
 国際的に活躍できる人材育成のため、本校のグローバル・エデュケーション・センター(GEC)と緊密に連携します。学生が多様な文化・価値観に触れ、国際的コミュニケーション能力を養えるよう、海外大学・企業との共同研究、国際学会での発表機会創出、充実した海外研修などを通じ、グローバルな舞台で通用する実践力を育みます。
 また、アイデアを社会実装する力を養うため、地域共同テクノセンター内の起業家工房と連携し、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育を強化します。起業家講演会やビジネスプランコンテストへの参加支援を通じ、学生の挑戦するマインドと問題解決能力を育成します。これらの取組は、「高専起業家サミット」での優秀賞受賞など、着実に成果を上げています。
 これらの活動を通じ、有明高専は、技術力とビジネスの視点を併せ持ち、グローバルな視野で未来のイノベーションを創出できる人材育成に努めてまいります。

 

4.CDECの主な事業内容

 CDECは、上記の目的を達成するため、以下の事業を柱として展開します。

(1)サーキットデザイン教育の普及と人材育成
 最新EDAソフトウェアを活用したワークショップ開催、高品質な教材開発・提供(小中高含む)、情報発信とコミュニティ形成。

(2)産学連携による教育コンテンツ開発
 企業との共同研究・産学連携マッチングラボによる社会実装教育、インターンシップ推進、技術交流会開催、海外連携強化、最新技術動向の研究と教育への反映。

(3)EDAライセンスの管理と教育機関への提供
 高額なEDAソフトウェアライセンスの一括管理と全国高専への提供、技術サポート、講習会・セミナー開催。

(4)サーキットデザインインストラクター育成
 実践的スキルを持つ指導者を育成し、全国の高専における質の高い教育体制を構築。CDEC 認定プログラムとして展開。

(5)サーキットデザイン教育を通じたアントレプレナーシップ教育
 起業家マインド育成プログラム、ビジネスプランコンテスト参加支援、起業家講演会・セミナー開催。

(6)サーキットデザイン教育基金の運営
 企業や個人からの寄付を募り、EDAソフトウェア提供、教材開発、ICチップ試作環境・機会提供、ワークショップ開催、インストラクター養成等に活用。

(7)産官学金との連携調整
 産業界、国・自治体、大学・高専、金融機関との連携を強化し、情報収集、意見交換、共同研究、人材交流を推進。

(8)COMPASS 5.0(半導体分野)への支援
 実践校としての役割を担い、企業技術者等を講師として招聘し、実践的な講義・演習、インターンシップ等を提供。

(9)その他センター運営事業
 事業計画策定・実行、予算・人事管理、広報、施設管理、CDEC運営会議(外部有識者含む)による審議、事業報告書の作成・公開。

 

5.今後の展望と期待

 CDECの活動を全国に展開し、質の高い半導体教育を多くの高専生に提供するには、EDAツール利用料、ICチップ試作費、教材開発費など多大な資金が不可欠です。限られた高専予算のみでは、これらの全国規模での継続的活動は困難です。
 皆様からのご寄附は、教育ノウハウ伝承、地域学校への出張授業、教材開発等の活動を力強く後押しし、日本の半導体産業発展に大きく貢献するものと確信しております。CDECは、産業界のニーズに応える実践的な半導体・集積回路分野の人材育成を目指しており、この取組の全国展開が、国内半導体産業全体の活性化と国際競争力強化に繋がるものと期待しております。
 本基金は、d.labの前身であるVDECの設立思想と有明高専が培ってきた産学連携ノウハウ、実践的技術教育の仕組みを融合させ、サーキットデザイン教育を通じて半導体・集積回路設計分野のトップ人材育成を加速し、我が国の半導体産業の国際競争力強化に貢献することを目指します。この目標達成には、皆様の温かいご支援が不可欠です。何卒ご理解ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

令和7年4月吉日

有明工業高等専門学校

校 長 八 木 雅 夫

理事長メッセージ

企業の皆様、そして高専を応援してくださる皆様へ
 独立行政法人国立高等専門学校機構 理事長の谷口 功です。
 高専は、高度経済成長期に産業界の要請に応えるべく創設され、以来、多くの優秀な技術者を輩出し、我が国の産業発展を支えてまいりました。
 今、我が国は、AI、IoT、自動運転などの次世代技術の基盤となる半導体分野で、世界をリードしていくために、人材不足という深刻な課題を克服することが急務です。
 有明高専では、画期的な「サーキットデザイン教育」を全国に展開し、産業界のニーズに応える実践的な人材育成を加速します。まさに、未来を担う技術者育成の要となる教育です。
 この活動をさらに強化し、全国に広げていくために、「サーキットデザイン教育基金」を設立いたしました。皆様からの温かいご寄附は、未来を担う半導体設計技術者の育成、そして我が国の半導体産業の国際競争力強化に役立てられます。
高専の未来、そして日本の未来への投資として、ぜひとも本基金にご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

独立行政法人国立高等専門学校機構

理事長 谷 口 功